素材と色 ー心地よさの提案ー 染色は素材と色のコラボレーション
イメージが湧いてきません。端切で試し染めをしてみてもしっくりこないのです。どうも心が通わない、インドの空気に惑わされたかな?・・でも布はやはり美しい。毎日布をさげ、あれこれ試行錯誤しながら、結局その高価な布は箪笥の奥にしまわれました。
それから5年以上たったある日、お客様から結婚式に出席するウェアとスカーフのご注文をいただきました。
「華やかなスカーフを引き立てるようなドレスを」というのがお客様のご希望でした。紗(しゃ)の大判サイズのスカーフは水が流れるような白のラインが入った紫がかった茶系、それを際立たせるウェアとなると・・?ふとインドの布を思い出したのです。そして長いこと箪笥の奥で眠っている布を引っぱり出しました。光の中でにぶい光沢を放ちながら布は「さあ、私の出番よ!」と云っているように感じたのです。草木染だ!草木でぼかし染にしよう!と思いました。栗の皮で染められたインドの布は見事な織の風あいもそのまま、シンプルなドレスに仕上がりました「きっと私を待っていてくれたのよ。着るほどにしなやかになる。」とはお客様の言葉で、普段にもずっと愛用して下さっています。
その時気付いたのです。この布を扱うには当時、私の腕が劣っていたことを。高度な技と感性で織られた布は同じレベルの技と感性が無いと受け入れてくれない事を。
すずき あき
◇東京生まれ
◇桑沢デザイン研究所インテリアデザイン科卒業
◇在学中に出会ったインド更紗(さらさ)に魅了され、染の道を歩もうと決め、染色では最も高度といわれる着物の世界に入りロウケツ染、友禅染を学ぶ。3年間の修業後1975年独立。約10年にわたり着物のデザイン、制作。
◇1984年着物の世界から脱皮しようと日本脱出。イタリア、フィレンツェ大学で再び学生となる。
◇帰国後「あき染色スタジオ」設立。タペストリー、パネルなどによるウィンドウディスプレイ、壁画ディスプレイを手がける。
◇1988年銀座ギャラリーおかりや企画展、日本橋高島屋個展をきっかけにスカーフ、ウェアなどにも手を広げる。
◇その他、染色教室、染色デザイン、スカーフアレンジメント、色彩コーディネイトなどのレクチャーで染色を広める活動をしている。